食品業界で働くこと - 卸編

なくならない業界

食品業界は、所謂、なくなることがない業界です。

 

人間、食べずには生きていけませんので

パンデミックのようなことが起きても

需要があり続けるのが食品業界です。

 

パンデミックのような状況でも

食品業界であれば

株価も恐ろしく落ち込むことはないでしょう。

 

常に需要があるが故に

昔ながらの考えや商習慣でも

生き残りが多い業界でもあります。

 

言い換えると、気合いだーの世代が

まだ生き残り指揮を執っているところもあるか

気合いだー世代にどっぷり教育された

ポスト気合いだー世代が組織を牽引しているかも

しれません。

 

では、その業界を色々紐解いていきましょう。

 

3種の業態

食品業界は、3種類の業態があります。

  • 食品メーカー
  • 食品卸
  • スーパーなどのリテール

食品業界で働きたいという人がいるのであれば

食品メーカー以外はお勧めしません。

 

力関係で常に優位に立ちたいという希望があれば

リテールをお勧めします。

バイヤーが全てのカギを握っているため

メーカー側も腰が低くなります。

 

一番、お勧めしないのは卸です。

 

理由の一つ目、ビジネスの利益率は低いため

給与水準は高くないということ。

 

管理職は貰っているかもしれませんが

現場の営業には還元されにくい業界です。

 

2つ目の理由は、とにかく考え方古く

常にメーカーからの利益補填に頼るビジネスモデルが

できています。

 

利益補填て何の?と思う人がいると思いますので

後ほど説明します。

 

この利益補填に頼るビジネスは後世生き延びられないです。

 

まずは、食品卸から紐解いていきましょう

 

利益補填に頼る生き方

これは、正直、一部のリテールには当てはまることかもしれませんが

往々にして、卸がメーカーに請求しているリベートのようなものです。

 

この補填のせいで、様々な矛盾が生じたりします。

 

よくある例が、値上げ後に値幅を補填して払い続けるというやり方です。

 

値上をしたのに、値上げ幅を補填で払っていたら

値上した意味がありません。

 

基本的にどのFMCG業界も売買契約の在り方は、買取ビジネスです。

 

つまりメーカー側の責任は、荷物が出荷された時点で終わりです。

倉庫からトラックが離れた瞬間から、買った側の責任になります。

 

しかし、その概念は歴史的に理解されていません。

 

説明するのにいい事例が返品です。

 

出荷するときには、段ボールに入った、所謂ケースで出荷されることが

多いです。

 

またこの段ボールは、中身を守るためにあるもので

多少の衝撃でケースが凹んでも

中身が丈夫であれば、ケースに入っていたことの

意義があるわけです。

 

しかし、少なくとも食品卸は、角が若干丸くなっていても

ダメージ品とみなし返品をしてきます。

 

海外では、凹んでいても中身がOKであれば

出荷もするし、受ける側も中身に異常がなければ

返品はしません。

 

日本人の几帳面な気質を考えれば

倉庫で凹んでいるという認識があれば

新しいのに入れ替えて出荷します。

 

つまり倉庫を離れたメーカー側の責任が終わるまでの状況で

へこみが生じる可能性は0ではないですが

限りなく少ないわけです。

 

となると、卸へ出荷する運送会社が輸送中に

へこみを生じさせた可能性が高くなります。

 

卸がどこがダメージなのか分からない程度のへこみでも

返品をしてくる時、本来、その賠償を問うなら

運送会社となるわけですが、彼らが凹ませた物的証拠がないわけです。

 

運送業者が「うちがやったと立証できる証拠がない」と言われれば

それまでで、実際ないです。

 

卸側は、返品したものの代替が欲しいから

メーカー側に代替品を送るように言ってきます。

なくなくメーカーは代替品を送ります。

 

では、返品された中身が無事な食品はどうなるのかというと

返品したものは、正規の値段では売れない中古品扱いになります。

  • イベントでサンプルとして使用するか
  • 安く大量に買ってくれる企業に赤字覚悟で売るか

の二択になります。

 

どれだけ気を使って出荷をしても、自分以外の原因のために

メーカーが全責任を負うことになります。

 

返品がくると、その分、メーカーは赤伝票(返金)を起伝します。

 

卸が責任を負う企業もあります。

 

米国で卸で働いていたことがあります。

 

一番釈然としない事例は、リテール側が賞味期限が切れると

全て返品をし、それに対して赤伝を卸側で立てていたことです。

 

十分売れる期間をもって購入した商品が動かなかった。

その間に賞味減が切れたから、お金返して

ってことです。

こんなにリスクのないビジネスって不公平ですよね。

 

米国での卸時代に返金をメーカーに求めるときは

メーカーからコンテナを受けたときに

その中身がぐちゃぐちゃで売り物にならなかったとき

無事なものを除き、メーカーに請求します。

 

メーカー側も出荷時には問題がなかったので

運送会社の責任なのですが

とりあえずメーカーが弁償をし後で

運送会社へクレームを言い渡しますが

それで弁償をしてもらえるかは別です。

 

いずれにしても、今の時代は

メーカーが全て尻ぬぐいをすることが多いです。

 

これが名の知れたビッグプレイヤーであれば

卸の返品を断れたりするかもしれませんが

名の知れていない中規模程度のメーカーは

卸の言いなりになります。

 

卸を薦めない他の理由

今は、まだしばらく大丈夫だと思いますが

これから先、卸がアマゾンのようなEC会社の物流に

飲み込まれると思います。

 

卸のいいところは、まとめて注文をとり

在庫してくれるところです。

 

しかし、昨今、受発注をしてくる卸も増え

注文だけ取ってきて、配送はメーカーの倉庫から

直接配送。伝票処理だけをする卸も出てきました。

 

配送料もメーカー持ちなのに

なぜ卸に安い価格で卸さなければならないのか

理解に苦しみます。

 

そうであれば、帳合をなくし直接リテールへ卸した方が

得策だと思う会社は多くありながら

そうなると今までまとまった売上が落ちるということと

帳合を解消することで、業界から総スカンを食らうことを

恐れてなかなか直接取引に切り替えることができない会社は

多いです。

 

でも、卸を使うメリットがなくなっているのであれば

直接卸すのと何も変わりません。

売上が多少落ちるかもしれませんが

卸への割引がなくなる分、利益額は多少なりとも

残っているわけなので、そこから次の一手を考えるのも

手かと思います。

 

AmazonB2B向けのサービス、Amazon Businessが伸びています。

日本の大学の90%は、このサービスを使っています。

しかも、企業が必要とする請求書も発行してくれます。

ここまであれば、卸である必要はありませんよね。

 

卸は、口座開設するために

一定規模の売上も必要ですから

小規模ビジネスには敷居も高いです。

 

それで人を介しますので

顧客によって扱いもまちまち

 

Amazonは人を介さない分

他人の意見に惑わされない商品選びができます。

 

ただもし、卸が

  • ロボットが倉庫作業をする
  • 自動運転トラックが配達
  • AIが受注する

などの機能を搭載した際は、話は多少変わってきますが

それでも、中間マージンという意味では

やはり卸を介さない方が安く手に入るし

メーカー側も本来得られる利益を手に入れられます。

 

ただ直接取引となると配送費がかかるのは回避できない負の要素

 

結局、この業界は、「ロジを制するものが市場を制す」と思います。

 

セール価格、どこが利益を削ってる?

これは、会社の大きさや国によっても大きく異なるかもしれません。

 

経験だけの話をしますが

 

アメリカで食品卸の仕事をしていた際

入庫時のダメージでなければ

利益を削るのは卸がやっていました。

 

日本に帰国してからは

中小規模のメーカーにいましたが

そこでは、メーカーが削っていました。

 

このメーカーがよく耳にする大手の場合は

メーカーと卸の力関係も異なるかもしれませんので

一概には言えません。

 

しかし、中小レベルのメーカーの場合

卸の方がバイヤーに近く、メーカーは卸の言われるがまま

という言い方をしても、さほど間違ってはいないと思います。

 

特にブランドの認知が殆どない場合は

圧倒的に卸が幅を利かせています。

 

そういうブランドを持つメーカーの場合は

ほぼ全てメーカーが補填をして利益を削ります。

 

私は、営業という職に就くまで

店舗で安売りしているのは

店が利益を削ってくれているのかと思いました。

 

勿論、店が利益を削って行うこともありますが

それは、例えば、単店で購買力も小さく

小さい店舗が故にお客さんも少なくて商品が動かないため

卸やメーカーに利益補填を依頼しても聞いてもらえない

という場合です。しかし、この形が本来ある形です。

 

しかし、自分が営業職に就いてから知った事実は

まず米国での経験を書いておきます。

2006~2009年くらいまで米国で日系食品商社に

努めていました。

 

米国の日系卸としては二大卸の一つとして

大きなシェアを持っていました。

しかしながら、シェアを守るが故に

顧客の要望を強く断れず、御用聞きになることも多く

以下のものは、全て卸で補填をしていました。

 

  • ダメージ品(これはどこでも補填すると思います)
  • 店舗に並べてから数ヶ月後の賞味期限品
  • セール品の割引分

 

ダメージ品の補填

これはどこでも返品を受けて、新しいものと入れ替えると思います。

ただ受け入れるタイミングは、入荷時のみです。

 

しかし、当時は、入荷時にはOKのもので

店舗の倉庫で眠っている間にダメージになったにも関わらず

引き取らされていました。

 

当時は、店の方が強く

断ると、かなり横柄な態度で

もう商売辞めるぞ!と脅してくるような

時代でした。

恐らく同時期の日本では

既にそういう時代は終わっていたかもしれませんが

米国の日系市場では、むかーしの日本の普通が

またまかり通っていました。

 

日本でメーカーで働いているとき

同様の件では、メーカーが補填をしています。

私が働いていたメーカーは、市場で中小規模なので

大企業のメーカーがどこまでやっているかは分かりません。

 

少なくとも、認知度が全国的に浸透していない

ブランドのメーカーであれば

入荷時以降のダメージ品の補填はメーカーが

しているのではないでしょうか?

 

日本でのダメージ補填の例1ですが

メーカー出荷時にはダメージが見られないため出荷

卸の入庫時にダメージ発見で返品される場合

(厳密にいうとメーカーの責任は、出荷のトラックが倉庫を離れる瞬間まで)

入庫時にダメージがある場合は

本来は配送業者の責任ですが

輸送中にダメージを負ったという証拠も

メーカーが提示できないため

ほぼ強制的にメーカーが補填をする形になります。

 

ダメージ例2ですが

店舗のお客さんからダメージで入荷されたので新しいのと交換してほしいという場合。

これは、卸の入庫時でダメージは確認されなかった。

卸からの出荷時にダメージが確認されず

店舗で荷受け時にダメージを発見

返品処理後、新しいものへ交換

 

この場合、卸から店舗へ向かう輸送時にダメージが起きたと思われます。

輸送のトラックが卸所有のものであれば

卸が補填をするべき

卸が外部の運送業者に依頼して配送していれば

運送業者が補填をするべき

 

しかし、上述のように運搬中のダメージであるという

証拠がないため、たとえ外注先の責任だと分かっていても

証明ができないため、本来であれば、これは卸が補填をするべきです。

 

しかし、これも卸を経由してメーカーが赤伝を切って

補填をします。

 

賞味期限切れ

日本では6ヶ月以上の賞味期限が出荷の前に必要とされていますが

(輸入食品の場合は、もっと短くてもOK)

米国では1日でも賞味期限があれば、店舗の同意の下

出荷が許されていました。

 

ここでは、出荷する前に十分期間がある場合のケースをお話いたします。

 

まず、出荷前に賞味期限まで6ヶ月残された商品が出荷されたとします。

入荷時にダメージもないので、そのまま棚に並べられ販売を開始します。

 

10個入荷して5個が6ヶ月経過の後、売れ残り賞味期限を迎えました。

店舗側は棚からその商品を下げ、倉庫によけておきます。

後日、卸の営業マンが来たタイミングで

全てを返品し、返金を卸がする

ということが普通に行われていました。

 

引き取った賞味期限切れは

量が少なければ、社の皆で分けたりします。

なぜ、廃棄に回さないかというと

廃棄にはお金がかかります。

 

ただで引き取ってくれた方が安上がりなのです。

 

店は、これを逆手に取ってくることもあります。

 

賞味期限の品の返金だけを求め

後は店で処理をすると言って

自分の家へ持ち帰って食材として使ったりしてます。

 

こちらの方があくどい気もしますが

社内で廃棄処分をするよりかは

お金がかかりません。

 

日本でメーカーで働いていた頃は

賞味期限が一定期間を過ぎると

全てではないですが

力のあるチェーン店とかからは

戻ってきました。

 

単に売れないからという理由で返品をしてくるのは

コンビニ系列です。

 

コンビニのように全国的に

多店舗を展開していると

市場での力をもっておりメーカーは

有無を言わさず従うしかありません。

 

コンビニは、2週間で売れるか売れないかを判断します。

その期間で動かないものは、店から消えます。

その後、まとめてメーカーの倉庫まで戻ってきます。

 

ここも本来であれば

卸に返品されるべきなのですが

卸はメーカーに投げてきます。

 

返品された商品は

もう通常出荷できなくなりますので

サンプル品扱いになることが多いです。

サンプル品にするには多すぎる量の場合は

安売り屋に赤字で販売することもあります。

 

セール品の割引分

これも営業という仕事をするまで知らなかったことです。

 

店でセール品が並んでいる、割引分は

店が利益を削っているのかと思いました。

 

これは、米国では卸が補填していました。

日本では、メーカーが補填しました。

上述同様、大手のメーカーが補填を受けているかどうかは分かりません。

 

まとめ

このように見た後で、皆さんは

メーカー、卸、店、どこが一番力を持っていると感じましたか?

 

恐らくお店だと思います。

 

ここに書いてあるのは、あくまでも私が経験した中での

会社規模と業態でしかありません。

店側では働いたことがないため、実業は把握していません。

 

しかし、少なくとも、店が卸やメーカーと関わっている部分では

卸かメーカーが負担していることがよくわかると思います。

 

店舗の経営は、本来、こういう補填をしてもらっている個所の

責任を全て負うことになるので、すごく大きなリスクを伴います。

 

実情は、そのリスクを外へ投げることで

利益を確保しているというわけです。

 

でも、ここまでの財政的リスクを外に投げているのに

給与水準上位に店舗が出てこないのはなぜなんでしょうか?

 

私がいた米国の高級食品スーパーのバイヤーの年収は

700万ほどでした。

日本の平均年収よりもかなり上ですよね。

この給与を聞くと、働きたくなります。

 

また米系の食品卸は歩合制になりますので

営業マンの年収は1000万超える人もいましたし

それが故に辞めませんし

自分のお客さんを新入社員に渡すということもありません。

自分で開拓しなければいけない厳しさがあります。

 

日系の卸で働いていた頃は

固定年収なので、やはりどんどん人は辞めていきましたね。

 

これくらい日系と米系では仕組みが違うということが分かっていただけたかと

思います。