食品業界で働くこと - 酒類メーカー営業編

なくならない業界

食品業界は、昔ながらの泥臭さもあるかもしれませんが

人間が生きるうえで必ず必要とするものを販売しているので

この世からなくなることは、現時点では考えにくい業界です。

BBQ

全国的に認知されているブランドを持っているのであれば

淘汰される確率も低いかもしれません。

 

色々な業界で仕事をしてきた中で

食品が一番長く携わったので

今後、そういう業界へ就職転職したい方のために

今回は酒類メーカーで経験してきたことを書いておこうと思います。

 

セールス

大抵どこの会社もセールスと部署があると思いますが

所謂営業です。

Sales person

機能としては、販売です。

 

とにかく、自社の商品やサービスを売ることに徹する部署です。

 

業界や会社によっては、

  • 顧客獲得までの行うセールス業務
  • 獲得してから顧客のメンテナンスを行うセールス業務

のように分かれている場合がありますが

食品業界に関しては、概ね営業の人が

新規獲得、既存顧客のメンテナンス両方を行っていると思います。

 

大企業の場合は、営業は「売る」ことに専念できる

環境が揃っているかもしれませんが

中小企業のメーカーだと、「売る」ことに専念できる

環境が整っていません。

ですので、売るということに専念できる営業を経験したい人は

大企業の営業職を目指すといいと思います。

 

営業の種類

大きめのメーカーであれば

製品群も多く、B2C向けとB2B向けの2種類の営業部隊がいると思います。

 

一般的に食品スーパー向けの営業をB2Cとし

原材料を販売する場合はB2Bとしています。

 

ここでは、B2Cの話をしていきます。

 

販売先の業態

食品に関する販売先の業態は大きく分けて2種類あります。

 

外資系では、スーパーマーケットのような量販店をOff-Premise(オフプレミス)といい

レストランのようなフードサービスをOn-Premise(オンプレミス)と呼びます。

OFF

略してオンとオフという呼び方をします。

 

私は、卸時代はオフプレミス、メーカー時代はオンとオフ両方の営業をしました。

 

どっちが好きかと言われたら、私はオフが好きですね。

 

酒類メーカーのもう一つの営業活動

Liquor Store

今でもこの商習慣があるかどうかは分かりませんが

あるのではないかと想定して

私は酒類業界に転職の応募をしていない理由が一つあります。

 

所謂、オンプレミスの「飲み営業」です。

 

言い換えると、そのレストランのお客さんになるということです。

 

一人のテリトリーは多いため全てのレストランへ顔を出せませんが

顔を出しては、1杯自分のメーカーのお酒を飲み売上に貢献し

次のお店へ顔を出すというサイクルを続ける活動です。

 

オンのお客さんは、人間関係を結構重視して購入することもあります。

 

会社から買うのではなく、人から買うという真理に基づいています。

 

これは、何もフードサービスに限ったことではありませんが

個店舗経営のお店には、当てはまります。

 

チェーンのフードサービスになると

店長レベルでは、取り扱い商品を選定できないので

お店周りをしても、仲良くはなりますが

商品を短期的に採用までもっていくのは難しいでしょう。

 

ただ、店長の誰かは、将来の商品部部長になることは

十分に考えられますので

店長時代に関係を作ってあれば

将来の売上機会を作れることは間違いありません。

 

要は、そこまで会社があなたの営業活動の成果を

待ってくれるかどうかです。

 

経験則からいうと、待ってくれる上司は殆どいないのと

待ってくれる上司に恵まれたとしても

恐らく成果が出る前に人事異動がでて

別の部署に移っている可能性の方が高いです。

 

ただ、次の担当へ間違いなく引き継げますが

引き継いだ人にも、店の好き嫌いがあります。

あなたが懇意にしていたお客さんを

引き継いだ担当が好きではないことは

往々にして考えられます。

 

つまり、あなたが頑張ったお客さんをつなぎとめるなら

担当が変わっても、あなた自身が通い詰めることです。

 

お客さんが一番いやなのは

担当がコロコロ変わることです。

 

気心が知れている人から購入するのが

同じものを購入するにしても気持ちがいいものです。

 

話を戻しますが「飲み営業」は

私は嫌いではありませんが、好きでもありません。

 

なぜかというと、会社側がある程度予算を持っていますので

予算内で回れば自腹はないわけですが

会社は、会社の望む顧客回りを指示してきます。

 

これがしんどいんです。

 

強制的に飲まされているお酒でも好きな人と

会社の指示の下で飲んでいるお酒はおいしくないと思う人もいると思います。

 

私は後者です。

 

私の飲み営業には、店の大小は関係ありませんでした。

お客様は等しく扱っていましたし、サービスも均一にしていました。

 

その考えで行くと、必ず上司とぶつかります。

 

「効率を考えて…」

「優先順位をつけて…」

「費用対効果が…」

 

てよく聞きますよね。

Priority

私は、これに関しては、相手が無機質な場合には有効だと考えています。

 

例えば非人間の場合

交通費、宿泊費、食費などでステークホルダーに人間が介在していないときには

有効だと思います。

 

相手が人間の場合

こういう考え方は、下手するとブランド毀損にもつながります。

 

小さな寿司屋を営んでいるオーナーだからと言って

その人の影響力が小さいのか大きいのかは分かりません。

 

かなりの繁盛店のオーナーが

他のフードサービスネットワークに対して影響力が大きいかも

分かりません。

 

沢山買っているからメーカーは懇意にしたいかもしれませんが

沢山売ろうと思って売ってくれている店より

値段が安く、人通りの多い場所に立地しているから

自然と人が入り、酒類も沢山出るというだけかもしれません。

 

そういうお店は、努力して売ってくれているのではありません。

 

寧ろ、そういう事実を利用して、ここまで売ってるんだから

と利用してくることもあります。

 

勿論、小さい店舗で、全然購入もなく、何かにつけては

新しいのと交換してと不満ばかりをいうお店はどうかとは思いますが

何も不満を言わずに、友好的に接してくれている店主を無碍にはできません。

 

そういう会社とのぶつかりが非常に嫌で

お酒が好きではなくなりました。

 

また上司は、優先順位、効率性、費用対効果を厳しく追及するくせに

キャバクラには、何としても自分たちのお酒を入れようと頑張るんです。

night club

それは、他のレストラン同様、お客様だからという理由をつけて

少しでも会社の経費で飲みに行くためです。

 

キャバクラが一番非効率でした。

ボトルを入れてくれるお客さん、しかも入れるボトルの種類も

数種類しかない場合は、次の注文がどんどん入ると思いますが

そういう縛りがない場合は、ちょびちょび減っていく

ウィスキーやハードリカーの次の受注はいつになるの?

の世界で、それでいて、一回皆で飲みに行くときの金額は

かなり高い。

 

そういう矛盾した商習慣が酒類業界では好きになれないところでした。

 

酒類のオフプレミス市場

これは、量販スーパー、酒屋チェーン、コンビニ、ホールセラーなどの営業になります。

 

店舗当たり少量を納品し、多くの店舗の担当をするのがオンプレミスの特徴に対し

1回に大量納品するダイナミックスさが好きだという人には

オフプレミスの営業がいいかもしれません。

 

こういうチャネルの商談は、本部商談か地域の本部商談か

あるいは店舗ごとかなど色々あると思います。

 

一番きついのは、本部で取り扱いが承認された後

各店の取り扱いは、店舗の店長に任せているという場合。

 

しんどいと思うかもしれませんが

近隣地域での消費者の趣味嗜好は大きく異なりませんが

地方同士の比較となると

東京では売れるけど九州では売れない

という商品は、普通に沢山あります。

 

従って、店長に任せるのは実は理にかなっていたりします。

 

しかし、売る側からすると交渉が大変ですよね。

地域によってまちまちな売上だと

販売予測を立てるのも難しいです。

 

でも売れないものを納品して

売れない商品のレッテルが付いてしまうよりかは

店長の判断で「売ってみようと」と思ってもらい

販売してもらった方が、最初の数量が少なくても

将来的にはいい方向に動きます。

 

オフプレミスの中で、たばこ業界以外は営業マンが入れないのが

コンビニですね。

CVS

コンビニは、本部で商談するしかなく

なかなかフランチャイズオーナーとの接点は営業マンはつかみにくいかもしれません。

でも、コンビニは、希望小売価格で売ってもらえるので

ブランド毀損は起こりませんのでメーカーとして嬉しいタッチポイントです。

 

次に酒類ですね。

 

酒類店は、レストランに卸す卸でもありますので

酒類業界が切っても切れない仲のチャネルです。

 

食品卸も酒類を持っていますが

個人的な意見として

食品卸に卸さず、酒類店に直接卸すのが一番いいんじゃないでしょうかね。

 

一つ中間を増やすと、利益が削られますから。

 

それに酒類店の方が24時間365日やってますから

オンプレミス側にも都合がいいです。

 

日本と米国の違い

最後に知っておくだけでもいいかもしれない豆知識

 

酒税は州により異なる

アメリカでは、州によって酒税が異なります。

そしてビール税は、安いです。

 

アメリカで「おーいお茶」が輸入で売っていますよね。

それよりもビールを買った方が安いです。

そのレベル。

 

ビールが売れるいい環境にあります。

 

基本的にアルコール度数が高ければ高くなります。

 

ワイン税も安い目ですがビールよりかは高い。

 

スピリッツ系は高いです。

ワシントン州が一番高くガロンあたり$35くらい

ワイオミングとニューハンプシャーはスピリッツの税はなしです。

 

ペンシルバニア州はビールはケース買いのみ

アメリカには、昔、禁酒法というのがありました。

その法律が一番最後に解禁になったのがペンシルバニア州

 

その名残が残っているのか

ビールが買いにくい制度が残っています。

 

ケース24本入りごとでしか購入ができません。

 

ただ、酒販店により1本で販売可能なライセンスを持っているところは

1本で販売が可能です。

 

クラフトビールが全米では今もうすでにデフォルトになってるかもですが

クラフトビールを販売している酒販店では、1本売りのところもあります。

 

ライセンスが異なるというわけです。

 

酒類販売ライセンスの取得が難しい

厳密にいうと、州によって異なります。

 

私が最後に住んでいたニュージャージー州では

ライセンス発行の絶対数量が決まっています。

 

既に絶対数量の上限まで発行済です。

 

ということは、既に持っている人から

買い取る必要がありますが

レストラン経営や酒販店を営んでいる人は

売ってくれません。

 

では、誰から購入したらいいのでしょうか?

方法は以下の通りです。

 

  • 廃業をするレストランをライセンスごと買い取る
  • 廃業した酒販店またはレストランのオーナーから直接買い取る
  • 廃業をしたレストランのオーナーがライセンスを売りに出したとき、弁護士が買い取るケースがある。ただライセンスを所有しているだけだと2年間しか所有できない。2年が経過する前に、購入した金額に利益を上乗せして転売をする時期があるので、その時に購入する。

買い取るといっても、家一戸分くらいの金額がしますので

ライセンスを売却したいというオーナーが良心的でない限りは

なかなか手ごろな値段で購入できないものです。

 

お酒を売れないレストランでは種類は飲めないのか

という疑問があるかもしれませんが、飲めます。

 

レストランの外で酒類を購入し

レストラン内でフードと一緒に飲んでいいのです。

 

BYOB(Bring Your Own Beverage)と呼ばれます。

 

日本では、お酒を売っていないレストランていうのは

少ないですよね。

 

BTOBだとお客からすると

自分の飲みたいお酒を好きなだけ持っていけるから

悪い話ではないんですけど

レストラン側は、あまり利益を取れないんです。

 

基本的にお酒で利益を取るのが

レストラン成功のコツです。

 

お酒を売れるのに

成功しないレストランは数多くありますが

少なくともお酒は効率的に利益が取れます。

 

特にアメリカでは、ビールの利益率はいいと思います。

ビールの小瓶がバーで$6~7で売っていますが

コストに対して3~4倍の利益くらいを乗せれます。

 

それくらい安いんです。

 

アメリカでは、従来の日本食レストランの内装設計の

日本食レストランは、繁盛しにくいと思っています。

 

これは、内装に秘密があります。

 

アメリカのレストランの設計は

入り口はいるとすぐにバーがあり

そこからはダイニングが見えにくく

設計されています。

 

どういうことかというと

まず、お客さんが入り口から入ってきた際に

すぐに一杯バーで購入するお客さんが多いです。

 

特に友人と飲みに来ている場合は

ダイニングの用意に時間がかかっても

バーで一杯飲むことで

それほど腹も立てません。

 

逆にいうと、本当はダイニングが空いていても

準備ができていないと伝えるだけで

ビールやワインをバーで注文して

先に一杯飲んでしまう人が多いです。

 

すると、そこで少なくと$6x2=$12は取れてしまうわけです。

フードは一人一プレート頼むとすると

$15x2=$30取れます。

この時点で$42とします。

ドリンクをお替り同じのを1杯ずつ頼むとします。

42+30=72。

 

これでお会計する際に、およそチップを平均15%程払います。

$7.20がチップ分。

合計で凡そ$80ほどになります。

 

見てわかる通り、日本のレストランの方が

安いです。チップ分てマクドナルド1セット分くらいありますよね。

 

このダイニングへ連れていく前の$12は

チップ前の合計の凡そ17%を占めるんですよ。

入り口前にバーがあるかないかだけで

それだけの違いが出ます。

 

なので、日本でもそういう設計を心がけてみてはどうでしょう?

 

勿論、日本人の文化に

来店してすぐに酒を購入するかどうかというのは

分かりませんが、アメリカで店を持とうと

考える人がいるなら、この設計の意味を

理解しておいた方がいいかもしれません。

 

アメリカ人がオーナーの日本食レストランは

上述の設計をしているところがあります。

 

高級レストランですが

レストラン入ってすぐは

バーしかありません。

 

ダイニングは二階にあるので

お客様には見えません。

 

私もお客として何度か行ったことはあるのですが

来店して予約をしている旨伝えると

テーブルの用意をしているので少し待ってくださいと言われます。

 

その間に、やはりビールを皆1杯ずつ購入して待ちます。

 

暫くして呼ばれ、ダイニングに上がっていくと

がらがら

だから、高級レストランなのに長く続くんです。

 

おいしいからお客さんが来るのは、確かにそうでしょう。

でも、おいしいだけでは成功できないという真理があります。

 

フードサービスに限らず、成功の裏にあるほとんどは

「売れるしくみ」があるかないかです。

 

日本では、この方程式は当てはまらないかもしれませんが

アメリカでは、チップがあるため

従業員に多くを払う必要がないという利点もありますし

高級バーやクラブでの接客では

1日チップが$500とかもらえたりします。

 

正直、週5日で25万円ですよね。

確実に給与所得の人より

高級バーやレストランでの接客やっていた方が

儲けられる。

 

不思議な世界です。

 

こうやって聞くと、フードサービスが

手っ取り早く成功しそうだと思うかもしれませんが

私は、レストランの経営は一番難しいと思います。

 

ビジネスの成功の秘訣欠かせない

参入障壁が低すぎるからです。

 

競合ばっかりですよね。

 

だから難しいんです。

 

システムを揃えたとして

競合全てがそのシステムで設計されていたとしたら

差はつかないですよね。

 

だから本当に難しいんです。

 

Covidのようなことが起きると

真っ先にダメージを食らう業界でもありますから。

 

慎重に考えて決断しましょう。